(小説)私は吸血鬼1~2
ぜんぜんヒマじゃないけど
寝れないのでかきます
オリジナルというか一次創作というかそういうのです
鹿狩りの話まで
私たちの夜は月が昇るころはじまる
昼の光が消え星が目覚め
遠くの窓に明かりがともるころ
私は館を出て黒い森へ向かう
太陽はみずから輝くという
月は太陽に光を託されるという
日のきらめく様は想像することしかできないが
星よりまぶしいのだろう
たった一つで世界を照らせるというから
庭で星を拾う
空のランプにそれを一つ二つ入れて
昨日の残り灯を移す
重なった星がぽつぽつと熱を帯びたら
庭を出て森へ向かう
私がこの森を管理することになったのは
十歳のことである
私たちは十歳になると
小さな土地を譲り受ける
最初は
真ん中に立てばすべてを見渡せる広さ
一年後には二回りほど大きい森を
その次にはもう少し大きな森を
そうして十六歳を迎えると
館を一つ
さらに
今までよりもずっと広い森を手に入れることとなる
この土地は父が用意した
広大な大地の上では
私の森はひどく矮小なものだ
ただ私にとってはあまりにも広く
一晩ではすべてを見回ることはできない
木々の
枝と葉の隙間から
月明かりがこぼれている
踏みしめる枯れ葉の音が
あたりにこだましている
森へ来てまずすることは
植物と動物の様子を確かめることだ
まずは草木を眺める
月に照らされて青白く光るのはいい木だ
星明かりに透けるのはいい葉だ
調子の悪い木はどんよりと暗く闇夜に浮かぶ
葉は黒く重くしなだれる
そのような樹木を見つけると
私はその魂を抜きとる
爪を深く幹へつきたてると
白い血が傷口から流れ
荒れた表面をつたい
地面へ流れ落ちる
枝葉が最後の色を失い
乾いた音を立てて枯れていく
やがて
墓標のような細く低く黒い木が
枯れた葉にうずもれて
さびしく立つ
こうしておけば
魂はふたたびこの世にかえり
新たな命となって
私の森に芽吹く
もし動物とはち合わせることがあれば
その目をじっと眺める
みずからにある命と星の輝きが
瞳の底に眠っていることを確かめる
動物たちは
死ぬ間際になると
私の前に姿を現さなくなる
つまり
そうして確かめることにはなにも意味がないのだが
私は彼らの目を眺めるのが好きだ
森を持つと
所有者は
その森に暮らすあらゆるものに名をつける
そうすることで
その森そのものを支配することになる
名前には
命が宿っている
命を宿すには
私たちが彼らの命に責任を持つには
名前を付けるしかない
これは私が気に入っている生き物だ
アカセイタカシギという
友人の領地では
これを
ヒメツバキドリという
これらは同じ形をしていて
なにもかもが似ているが
名前が違うのであれば
別の生き物なのだ
命には無限の形があるが
大きく分ければ
いくつかの種類がある
命の形を調べておくのは
夜の中に走り回る彼らの姿を見失うのを
防ぐためである
私たちは夜に効く目を持っているし
少しの明かりがあれば
そこにあるものを見分けることができる
ただ
命のきらめきとは複雑なもので
彼らが私に見えようとしなければ
目だけでは追えないのだ
命の形を見極め
尾を引く魂の色を知れば
おのずと彼らのゆく道を
彼らの名前さえも
見えてくるのだ
生き物は私たちに直接の影響をおよぼす
私たちは血がなくては生きていけない
彼らに通う血は
そのまま私たちに通う血となる
それを
私たちは暗黙の了解として生きる
私は永遠にこの森の命を
守り続けることになる
かわりに森は
私の命を守り続ける
目に見えるものとしてあるかないか
それが一番の違いである
していることは同じだ
私にはもうひとつ仕事がある
明かりの消えた星を見つけ
灯をともしておくことである
毎晩行わなくてはいけないわけではないが
私はこの作業が嫌いではない
ランプのふたを開け
落ちている星を拾い
炎の上に翳す
黒く透明な石はじわじわとあたたまり
中心から
外へ
幾筋もの光を伸ばし
光は外へと出る前に
くるくると円を描き
中を飛び回る
やがて石は光で満ち
星となる
それを木々の枝の先へ刺し
空気へ溶けていくのを見守る
一晩で二個ほどの星を空へかえし
私は館に戻る
一日でできることはそれくらいだ
命を見守ることは
命を持つ者には難しい
私たちのように
鏡に映らない
体の中がからっぽの
魂を持たないものが
行わなくてはいけないのだ
私は吸血鬼
ありふれた名を持つ
ここでは仮にアルカードとする
灰皿に生まれ
吸血鬼に囲まれて育ち
吸血鬼として生きてきた
私を生んだ灰は
私に名前を与えた
その名を内に秘め続け魂の代わりとし
月の下で眠る
名前は言葉にならず
私の中に
くすぶった灯のように
残り続ける
私は吸血鬼アルカード
灰の息子
友人はときどき私を狩りに誘う
誰のものでもない森で
鹿を探すのだ
私は鹿狩りが嫌いではない
退屈な夜に丁度いいからだ
本を読むのに飽きた時は
自分から誘うこともある
支配する者がない森には
消えた星ばかりが落ちている
そうなると動物たちは
夜に眠るのである
木々は黒く
月は何も照らさない
その中で鹿を見つけるのは難しい
荒れ果てた地面を
一晩中歩き回り
鹿を見つければ
狩りが始まる
音を立てずに近づく
意味のないことだが
彼らの耳に私たちの足音は入らない
声も
呼吸も
すべて星の中に吸い込まれていく
落ちた星には
音を食う力があるからだ
つやのない毛皮へ
白い首へ手を伸ばす
鹿はぴくりとも動かない
そっと指を折り
木の幹より細い首を包み込む
深い眠りは
私の持つ熱を
なにもかもを消し去る
私たちは
そこに自分が存在しているのか
不安になるほど
ここにいない
両手にくっと力を入れ
けものの顎を持ち上げて
妙に白い喉元を晒す
いとしいものへくちづけをするように
目を細めながら
顔を近づけて
牙をやわらかな喉笛へ突き立てる
鹿はようやく目を覚ます
黒い目を見開き
魂が消えるのを待つ
一声も鳴かず
身じろぎもせず
私がこくんと喉をならすのに
耳を澄ましている
毛皮のにおいがする
死んだ森のにおい
枯れた木々の
燃え尽きた星の
月の明かりが全てに降り注ぎ
しかしそれを拒む全ての
くすんだにおい
牙を抜き
指をひとつずつ離していく
鹿の鼓動は喉を揺らし
いっさいの赤をにじませることなく
白い毛の中に傷口を隠して
瞳はいっそう強く輝き始める
私がそこから数歩下がると
鹿は再び眠りにつく
しかし彼の魂はすっくと
白く染まった体で月の下へ堂々と立ちあがり
私たちに見向きもせず
どこか遠い場所を睨む
魂のゆきさきというのを私は知らない
ただ彼らが見ているのは
魂のゆきさきであろうと思う
その目に迷いはなく
覚悟と
未来と
希望が
力強く結び付き
夜に生きるものとしての生を再び受け
魂のゆきさきを見すえるのだ
白い鹿は駆けだす
細い四肢で飛び跳ねる
彼が踏んだ地面には
光の波紋が広がり
夜が歪む
眠る鹿はその光に照らされることなく
地上と昼に生きるものとして
音もなく夢に沈む
これが鹿狩りである
体と魂を引きはがすこと
夜と昼
両方で生きるための準備
何かを目指し駆ける鹿は
もうここには戻らない
私の森に
一頭だけ白い鹿がいる
彼は夜中眠らずに木々の間を走り回り
天へそびえる角の先に白い花をひっかけ
銀で出来た細い鎖を垂らし
偽物のような輝く黒い瞳で
他の生き物たちを眺める
落ちた星を咥えては泉へ落とす
泉へ落ちた星はしんとして
月明かりだけを蓄え
やがて自ら天へ戻る
私は彼の名前を思いつかない
なに
あと十年もすれば
自然と浮かぶさと
父は言った
自分の森に帰った私は
白い影と向き合った
彼はふいとそっぽを向き
そこにあった黒い星をかりかりと齧った
私にはまだ
彼を呼ぶことはできない
ただ
父の言うことは真実だと
そんな気がしている
寝れないのでかきます
オリジナルというか一次創作というかそういうのです
鹿狩りの話まで
私たちの夜は月が昇るころはじまる
昼の光が消え星が目覚め
遠くの窓に明かりがともるころ
私は館を出て黒い森へ向かう
太陽はみずから輝くという
月は太陽に光を託されるという
日のきらめく様は想像することしかできないが
星よりまぶしいのだろう
たった一つで世界を照らせるというから
庭で星を拾う
空のランプにそれを一つ二つ入れて
昨日の残り灯を移す
重なった星がぽつぽつと熱を帯びたら
庭を出て森へ向かう
私がこの森を管理することになったのは
十歳のことである
私たちは十歳になると
小さな土地を譲り受ける
最初は
真ん中に立てばすべてを見渡せる広さ
一年後には二回りほど大きい森を
その次にはもう少し大きな森を
そうして十六歳を迎えると
館を一つ
さらに
今までよりもずっと広い森を手に入れることとなる
この土地は父が用意した
広大な大地の上では
私の森はひどく矮小なものだ
ただ私にとってはあまりにも広く
一晩ではすべてを見回ることはできない
木々の
枝と葉の隙間から
月明かりがこぼれている
踏みしめる枯れ葉の音が
あたりにこだましている
森へ来てまずすることは
植物と動物の様子を確かめることだ
まずは草木を眺める
月に照らされて青白く光るのはいい木だ
星明かりに透けるのはいい葉だ
調子の悪い木はどんよりと暗く闇夜に浮かぶ
葉は黒く重くしなだれる
そのような樹木を見つけると
私はその魂を抜きとる
爪を深く幹へつきたてると
白い血が傷口から流れ
荒れた表面をつたい
地面へ流れ落ちる
枝葉が最後の色を失い
乾いた音を立てて枯れていく
やがて
墓標のような細く低く黒い木が
枯れた葉にうずもれて
さびしく立つ
こうしておけば
魂はふたたびこの世にかえり
新たな命となって
私の森に芽吹く
もし動物とはち合わせることがあれば
その目をじっと眺める
みずからにある命と星の輝きが
瞳の底に眠っていることを確かめる
動物たちは
死ぬ間際になると
私の前に姿を現さなくなる
つまり
そうして確かめることにはなにも意味がないのだが
私は彼らの目を眺めるのが好きだ
森を持つと
所有者は
その森に暮らすあらゆるものに名をつける
そうすることで
その森そのものを支配することになる
名前には
命が宿っている
命を宿すには
私たちが彼らの命に責任を持つには
名前を付けるしかない
これは私が気に入っている生き物だ
アカセイタカシギという
友人の領地では
これを
ヒメツバキドリという
これらは同じ形をしていて
なにもかもが似ているが
名前が違うのであれば
別の生き物なのだ
命には無限の形があるが
大きく分ければ
いくつかの種類がある
命の形を調べておくのは
夜の中に走り回る彼らの姿を見失うのを
防ぐためである
私たちは夜に効く目を持っているし
少しの明かりがあれば
そこにあるものを見分けることができる
ただ
命のきらめきとは複雑なもので
彼らが私に見えようとしなければ
目だけでは追えないのだ
命の形を見極め
尾を引く魂の色を知れば
おのずと彼らのゆく道を
彼らの名前さえも
見えてくるのだ
生き物は私たちに直接の影響をおよぼす
私たちは血がなくては生きていけない
彼らに通う血は
そのまま私たちに通う血となる
それを
私たちは暗黙の了解として生きる
私は永遠にこの森の命を
守り続けることになる
かわりに森は
私の命を守り続ける
目に見えるものとしてあるかないか
それが一番の違いである
していることは同じだ
私にはもうひとつ仕事がある
明かりの消えた星を見つけ
灯をともしておくことである
毎晩行わなくてはいけないわけではないが
私はこの作業が嫌いではない
ランプのふたを開け
落ちている星を拾い
炎の上に翳す
黒く透明な石はじわじわとあたたまり
中心から
外へ
幾筋もの光を伸ばし
光は外へと出る前に
くるくると円を描き
中を飛び回る
やがて石は光で満ち
星となる
それを木々の枝の先へ刺し
空気へ溶けていくのを見守る
一晩で二個ほどの星を空へかえし
私は館に戻る
一日でできることはそれくらいだ
命を見守ることは
命を持つ者には難しい
私たちのように
鏡に映らない
体の中がからっぽの
魂を持たないものが
行わなくてはいけないのだ
私は吸血鬼
ありふれた名を持つ
ここでは仮にアルカードとする
灰皿に生まれ
吸血鬼に囲まれて育ち
吸血鬼として生きてきた
私を生んだ灰は
私に名前を与えた
その名を内に秘め続け魂の代わりとし
月の下で眠る
名前は言葉にならず
私の中に
くすぶった灯のように
残り続ける
私は吸血鬼アルカード
灰の息子
友人はときどき私を狩りに誘う
誰のものでもない森で
鹿を探すのだ
私は鹿狩りが嫌いではない
退屈な夜に丁度いいからだ
本を読むのに飽きた時は
自分から誘うこともある
支配する者がない森には
消えた星ばかりが落ちている
そうなると動物たちは
夜に眠るのである
木々は黒く
月は何も照らさない
その中で鹿を見つけるのは難しい
荒れ果てた地面を
一晩中歩き回り
鹿を見つければ
狩りが始まる
音を立てずに近づく
意味のないことだが
彼らの耳に私たちの足音は入らない
声も
呼吸も
すべて星の中に吸い込まれていく
落ちた星には
音を食う力があるからだ
つやのない毛皮へ
白い首へ手を伸ばす
鹿はぴくりとも動かない
そっと指を折り
木の幹より細い首を包み込む
深い眠りは
私の持つ熱を
なにもかもを消し去る
私たちは
そこに自分が存在しているのか
不安になるほど
ここにいない
両手にくっと力を入れ
けものの顎を持ち上げて
妙に白い喉元を晒す
いとしいものへくちづけをするように
目を細めながら
顔を近づけて
牙をやわらかな喉笛へ突き立てる
鹿はようやく目を覚ます
黒い目を見開き
魂が消えるのを待つ
一声も鳴かず
身じろぎもせず
私がこくんと喉をならすのに
耳を澄ましている
毛皮のにおいがする
死んだ森のにおい
枯れた木々の
燃え尽きた星の
月の明かりが全てに降り注ぎ
しかしそれを拒む全ての
くすんだにおい
牙を抜き
指をひとつずつ離していく
鹿の鼓動は喉を揺らし
いっさいの赤をにじませることなく
白い毛の中に傷口を隠して
瞳はいっそう強く輝き始める
私がそこから数歩下がると
鹿は再び眠りにつく
しかし彼の魂はすっくと
白く染まった体で月の下へ堂々と立ちあがり
私たちに見向きもせず
どこか遠い場所を睨む
魂のゆきさきというのを私は知らない
ただ彼らが見ているのは
魂のゆきさきであろうと思う
その目に迷いはなく
覚悟と
未来と
希望が
力強く結び付き
夜に生きるものとしての生を再び受け
魂のゆきさきを見すえるのだ
白い鹿は駆けだす
細い四肢で飛び跳ねる
彼が踏んだ地面には
光の波紋が広がり
夜が歪む
眠る鹿はその光に照らされることなく
地上と昼に生きるものとして
音もなく夢に沈む
これが鹿狩りである
体と魂を引きはがすこと
夜と昼
両方で生きるための準備
何かを目指し駆ける鹿は
もうここには戻らない
私の森に
一頭だけ白い鹿がいる
彼は夜中眠らずに木々の間を走り回り
天へそびえる角の先に白い花をひっかけ
銀で出来た細い鎖を垂らし
偽物のような輝く黒い瞳で
他の生き物たちを眺める
落ちた星を咥えては泉へ落とす
泉へ落ちた星はしんとして
月明かりだけを蓄え
やがて自ら天へ戻る
私は彼の名前を思いつかない
なに
あと十年もすれば
自然と浮かぶさと
父は言った
自分の森に帰った私は
白い影と向き合った
彼はふいとそっぽを向き
そこにあった黒い星をかりかりと齧った
私にはまだ
彼を呼ぶことはできない
ただ
父の言うことは真実だと
そんな気がしている
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