2013.05.16. see(未完)
おそらく載せていなかったはずである。
ずいぶん前に書き始めた「see」という世宇子の小説で、
現実世界ではない場所が舞台です。
神話とか童話とかをイメージして書いたものなので
小説というよりは文章です。
なにも載せるものがなかったので、間を持たせるため(!)UP。
未完成なため途中でちょんぎれています。
空と海にまっしろな光がみちあふれた、ある午後のことです。
ずいぶん前に書き始めた「see」という世宇子の小説で、
現実世界ではない場所が舞台です。
神話とか童話とかをイメージして書いたものなので
小説というよりは文章です。
なにも載せるものがなかったので、間を持たせるため(!)UP。
未完成なため途中でちょんぎれています。
空と海にまっしろな光がみちあふれた、ある午後のことです。
どこまでもつづく透明な海の上でヘパイスは舟をこいでおりました。三人も人が乗ればいっぱいになってしまう、小さな船です。
彼は両手でしろい櫂を持ち、船首のすぐそばに立っておりました。
舟と櫂は、まっしろな木でできていました。
彼が自分の身長ほどもある櫂を水面のほうにゆっくりと倒せば、鳥の翼のようなひれが水を押し、舟が波も立てずにしずかに前に進みました。さらに力をいれて櫂を押しこめば、水面から飛び出したひれがざぱんと音をたてました。
彼が持っている櫂は一本でした。ひれの反対には、アルファベットのTの形をした持ち手がついています。彼はよく焼けた片手でそれを握り、もう片手でしっかりと軸を持ち、ゆっくりと上下左右に動かしていました。
はたして舟が進んでいるのかどうかは、わかりません。あたりに、景色のようなものが見当たらないからです。
ですが、よくよく目をこらしてみると、まっさおな空にはちいさな雲がぽつぽつと浮かんでおりましたし、海の底をながめれば、しろい砂が太陽の光をうけてきらきらかがやいているのが見えます。さらに水面に目を近づけてみますと、しろい砂の上に、同じくらいしろいレンガですとか、流木のようなものですとか、サンゴ、針金、看板のようなもの、ときどきは壊れた像などが横たわっています。それらは日の光にちいさな影を落とし、いつかふたたび目覚めることを待ちこがれているように、眠っていました。
しかし、ヘパイスがいくら舟をこいでも、景色はちっとも動きません。水面と水の底は山の頂上と空ほどはなれていしたから。
だれだって、夜の散歩にでかけたとき、月を追いかけたことがあるでしょう。いくら歩いて追っても、たとえ走っても、お月さまはこちらに近づいてきません。それと同じです。水の底と舟とは、それくらいはなれていたのです。
しかし、動いているのは舟と少年だけではありませんでした。
ときおり、雲と同じ色をした鳥が、水面すれすれをすべるように飛んでいきます。ちいさな魚がダイヤのようなうろこをかがやかせながら泳いでいるのもみえます。雪のようにしろい大きなワシが太陽を背にして鳴きました。うみへびよりも長い、ふしぎな魚が、ピンク色のひれを舞うように動かしながら、舟の下を右から左へゆうゆうと横切っていきます。
おもしろい生き物もいます。海の底から空へと飛びだす小鳥や、雲の間を出たり入ったりしているクジラがそうです。
この世界では、海と空はおなじようなものです。海をほんとうに泳げるものは空を泳げますし、天空を飛ぶことができれば、おなじように海の中でも自由にはばたけるのです。
ですから、イルカが自分のすぐ横を通りすぎても、舟の横から鳥の群れが飛びだしてきても、ヘパイスはちっともおどろきませんでした。櫂を動かす手を止めず、たまに少しだけそちらのほうを見ましたが、すぐにまっすぐ元の方向を見ました。
鳥の声と、魚がはく泡の音と、櫂が水を押す音だけがきこえます。
透明な海にはしろい波もたたず、透明な波と泡だけがゆれています。太陽が空にうかんでいます。雲のカーテンのあいだから海へいくつもの光のすじを落としています。
かぞえきれないくらい、水の音がした後のことです。
青い空の下、透明な海をゆく舟の目の前に、まるで蜃気楼のように、島の影が現れました。島といっても、大きな島ではありません。塔の先が海の上にちょこんと頭をだしているだけの島でした。
最初は空についているひっかき傷のようなちいさな影でしたが、櫂をこげばこぐほどそれは近づいてきました。角砂糖くらいのおおきさだった塔が、手のひらくらい、両手を広げたくらいになって、もうしばらくすれば、まさしくお城の先についている塔とおなじ大きさになりました。
しろいレンガで作られたそれは、海の底から空にむかってぐんぐんのびていて、水面のちょうど下に大きな大きなお城をのこし、頭だけをぽっかりだしているのでした。お城の壁はくずれ、半分は砂に埋もれ、船底のはるか下に沈んでいます。いちばん高く作られたこの塔だけが、水に沈まずにいるのでした。
塔の先といっても、みなさんのすんでいる家よりも、一回りか二回りくらいおおきな建物です。レンガでできた壁は大人の人が何人肩車をしても乗り越えられないくらい高くそびえています。壁には、こちらを向いているものだけでも、窓が五つもありました。その一つ一つは、人が身を縮めなくても中に入れるくらい、広びろとしていました。
ヘパイスはひとつの窓のすぐそばに船を繋ぎとめました。
中はやはりまっしろなレンガで作られていました。しろい床の上にまっかなじゅうたんがしいてあり、すこし奥には柱が規則ただしく並んでいます。窓からすこし歩きますと、五段だけの階段があり、じゅうたんはその上をとおって柱のほうへとつづいています。
階段の上には、古びたテーブルがひとつと、一人用のソファーが七つ置いてありました。アテナとメドゥーサが、テーブルをはさむように座っています。二人はチェスをさしていました。真鍮で作られた駒の、美しいものでした。
窓から部屋にはいってきたヘパイスをみて、アテナが席を立ちました。彼があいさつをする前に、ヘパイスが言いました。
「手紙をもらったのが午前だったから、ゆっくり来たんだけど、遅刻してしまったかな」
壁にかかった時計をおおげさにみあげ、ちいさく手を振ってみせました。
アテナはやれやれといったふうにうなずきました。
「やはりヘルメスに郵便を頼んだのがまちがいでした」
「彼はいつでもいそがしいからね」
ヘパイスもうなずきます。「誰か別の人にたのめればよかったんだけど」
この世界には郵便屋がおりません。世界にすむこどもたちや大人たちは、もちろんそれぞれに役割や仕事をもっていますが、どうしてだか、郵便屋だけはいないのでした。
急ぎの用ができたときは、だれかに頼んで手紙を渡してもらうか、自分でそれぞれの家をたずねるほかありません。
「手紙運び用の自動人形をつくったらどうだろう」
チェスの駒を片手でもてあそびながら、メドゥーサが言いました。「鉄でも真鍮でもいいから、ながく飛んでも壊れないようなやつがあればいいんじゃないかな」
「それがなかなかむずかしくて」
ボードの上にならんだ駒を見ながら、ヘパイスはためいきをつきました。
ここにある駒もボードも机も、彼が作ったものです。彼は、アテナの持つ知識やデメテルが育てた木を使い、たくさんのものを作りみんなにくばっていました。
あたらしいものを作りだしたり、よいものばかりをつくるのは難しいことです。それは、いつの時代になってもおなじなのです。
「ひとりでに歩くものはつくれるけど、ひとりでに空を飛ぶものはいままで一度もつくれたことがないんだ」
青い空がのぞく天窓をみあげ、彼は目をわずかに細めました。
「それより、手紙の話をしよう。誰をみつけたんだって?」
「そうだった」
アテナがぽんと手を打ちました。
「イカロスのことですよ。イカロスをみつけたんです。ついこの前、海に墜落したらしいんです。おとといやっと目を覚ましたところです」
チェスの駒をひとつ動かし、彼は手招きしました。駒のゆくさきを見ていたメドゥーサが小さく舌打ちして、チェス板をにらみました。
アテナは、部屋の奥にある下り階段へとむかかいました。ヘパイスがその後をゆっくり追いました。
塔の地下には、この時代につくられたあらゆるすてきなものがならんでいました。
かつてアポロンが使っていた、太陽をはこぶ馬車、天と地をつないでいたはしご、鉄でできた木、こまかな彫刻のある花瓶、糸よりもほそいはりがねでできた鳥かごなどでした。
なかでも一際目をひくのは、やはり、金属と羽でつくられた翼でしょう。
それは、壁一面につるされていました。なめらかでうつくしい羽毛が、鳥の翼とおなじように並べられ、真鍮や青銅、白銀などの土台にとめられているのです。土台には二本のベルトがついています。ものによりますが、これをしっかり身体にくくりつけると、鳥のように空を舞うことができるのです。どういうふうにとべるのかは、後ほどお話します。
アテナとヘパイスは、それらの横を通りすぎていきました。羽の列と廊下はどこまでも続いているようでした。
彼は両手でしろい櫂を持ち、船首のすぐそばに立っておりました。
舟と櫂は、まっしろな木でできていました。
彼が自分の身長ほどもある櫂を水面のほうにゆっくりと倒せば、鳥の翼のようなひれが水を押し、舟が波も立てずにしずかに前に進みました。さらに力をいれて櫂を押しこめば、水面から飛び出したひれがざぱんと音をたてました。
彼が持っている櫂は一本でした。ひれの反対には、アルファベットのTの形をした持ち手がついています。彼はよく焼けた片手でそれを握り、もう片手でしっかりと軸を持ち、ゆっくりと上下左右に動かしていました。
はたして舟が進んでいるのかどうかは、わかりません。あたりに、景色のようなものが見当たらないからです。
ですが、よくよく目をこらしてみると、まっさおな空にはちいさな雲がぽつぽつと浮かんでおりましたし、海の底をながめれば、しろい砂が太陽の光をうけてきらきらかがやいているのが見えます。さらに水面に目を近づけてみますと、しろい砂の上に、同じくらいしろいレンガですとか、流木のようなものですとか、サンゴ、針金、看板のようなもの、ときどきは壊れた像などが横たわっています。それらは日の光にちいさな影を落とし、いつかふたたび目覚めることを待ちこがれているように、眠っていました。
しかし、ヘパイスがいくら舟をこいでも、景色はちっとも動きません。水面と水の底は山の頂上と空ほどはなれていしたから。
だれだって、夜の散歩にでかけたとき、月を追いかけたことがあるでしょう。いくら歩いて追っても、たとえ走っても、お月さまはこちらに近づいてきません。それと同じです。水の底と舟とは、それくらいはなれていたのです。
しかし、動いているのは舟と少年だけではありませんでした。
ときおり、雲と同じ色をした鳥が、水面すれすれをすべるように飛んでいきます。ちいさな魚がダイヤのようなうろこをかがやかせながら泳いでいるのもみえます。雪のようにしろい大きなワシが太陽を背にして鳴きました。うみへびよりも長い、ふしぎな魚が、ピンク色のひれを舞うように動かしながら、舟の下を右から左へゆうゆうと横切っていきます。
おもしろい生き物もいます。海の底から空へと飛びだす小鳥や、雲の間を出たり入ったりしているクジラがそうです。
この世界では、海と空はおなじようなものです。海をほんとうに泳げるものは空を泳げますし、天空を飛ぶことができれば、おなじように海の中でも自由にはばたけるのです。
ですから、イルカが自分のすぐ横を通りすぎても、舟の横から鳥の群れが飛びだしてきても、ヘパイスはちっともおどろきませんでした。櫂を動かす手を止めず、たまに少しだけそちらのほうを見ましたが、すぐにまっすぐ元の方向を見ました。
鳥の声と、魚がはく泡の音と、櫂が水を押す音だけがきこえます。
透明な海にはしろい波もたたず、透明な波と泡だけがゆれています。太陽が空にうかんでいます。雲のカーテンのあいだから海へいくつもの光のすじを落としています。
かぞえきれないくらい、水の音がした後のことです。
青い空の下、透明な海をゆく舟の目の前に、まるで蜃気楼のように、島の影が現れました。島といっても、大きな島ではありません。塔の先が海の上にちょこんと頭をだしているだけの島でした。
最初は空についているひっかき傷のようなちいさな影でしたが、櫂をこげばこぐほどそれは近づいてきました。角砂糖くらいのおおきさだった塔が、手のひらくらい、両手を広げたくらいになって、もうしばらくすれば、まさしくお城の先についている塔とおなじ大きさになりました。
しろいレンガで作られたそれは、海の底から空にむかってぐんぐんのびていて、水面のちょうど下に大きな大きなお城をのこし、頭だけをぽっかりだしているのでした。お城の壁はくずれ、半分は砂に埋もれ、船底のはるか下に沈んでいます。いちばん高く作られたこの塔だけが、水に沈まずにいるのでした。
塔の先といっても、みなさんのすんでいる家よりも、一回りか二回りくらいおおきな建物です。レンガでできた壁は大人の人が何人肩車をしても乗り越えられないくらい高くそびえています。壁には、こちらを向いているものだけでも、窓が五つもありました。その一つ一つは、人が身を縮めなくても中に入れるくらい、広びろとしていました。
ヘパイスはひとつの窓のすぐそばに船を繋ぎとめました。
中はやはりまっしろなレンガで作られていました。しろい床の上にまっかなじゅうたんがしいてあり、すこし奥には柱が規則ただしく並んでいます。窓からすこし歩きますと、五段だけの階段があり、じゅうたんはその上をとおって柱のほうへとつづいています。
階段の上には、古びたテーブルがひとつと、一人用のソファーが七つ置いてありました。アテナとメドゥーサが、テーブルをはさむように座っています。二人はチェスをさしていました。真鍮で作られた駒の、美しいものでした。
窓から部屋にはいってきたヘパイスをみて、アテナが席を立ちました。彼があいさつをする前に、ヘパイスが言いました。
「手紙をもらったのが午前だったから、ゆっくり来たんだけど、遅刻してしまったかな」
壁にかかった時計をおおげさにみあげ、ちいさく手を振ってみせました。
アテナはやれやれといったふうにうなずきました。
「やはりヘルメスに郵便を頼んだのがまちがいでした」
「彼はいつでもいそがしいからね」
ヘパイスもうなずきます。「誰か別の人にたのめればよかったんだけど」
この世界には郵便屋がおりません。世界にすむこどもたちや大人たちは、もちろんそれぞれに役割や仕事をもっていますが、どうしてだか、郵便屋だけはいないのでした。
急ぎの用ができたときは、だれかに頼んで手紙を渡してもらうか、自分でそれぞれの家をたずねるほかありません。
「手紙運び用の自動人形をつくったらどうだろう」
チェスの駒を片手でもてあそびながら、メドゥーサが言いました。「鉄でも真鍮でもいいから、ながく飛んでも壊れないようなやつがあればいいんじゃないかな」
「それがなかなかむずかしくて」
ボードの上にならんだ駒を見ながら、ヘパイスはためいきをつきました。
ここにある駒もボードも机も、彼が作ったものです。彼は、アテナの持つ知識やデメテルが育てた木を使い、たくさんのものを作りみんなにくばっていました。
あたらしいものを作りだしたり、よいものばかりをつくるのは難しいことです。それは、いつの時代になってもおなじなのです。
「ひとりでに歩くものはつくれるけど、ひとりでに空を飛ぶものはいままで一度もつくれたことがないんだ」
青い空がのぞく天窓をみあげ、彼は目をわずかに細めました。
「それより、手紙の話をしよう。誰をみつけたんだって?」
「そうだった」
アテナがぽんと手を打ちました。
「イカロスのことですよ。イカロスをみつけたんです。ついこの前、海に墜落したらしいんです。おとといやっと目を覚ましたところです」
チェスの駒をひとつ動かし、彼は手招きしました。駒のゆくさきを見ていたメドゥーサが小さく舌打ちして、チェス板をにらみました。
アテナは、部屋の奥にある下り階段へとむかかいました。ヘパイスがその後をゆっくり追いました。
塔の地下には、この時代につくられたあらゆるすてきなものがならんでいました。
かつてアポロンが使っていた、太陽をはこぶ馬車、天と地をつないでいたはしご、鉄でできた木、こまかな彫刻のある花瓶、糸よりもほそいはりがねでできた鳥かごなどでした。
なかでも一際目をひくのは、やはり、金属と羽でつくられた翼でしょう。
それは、壁一面につるされていました。なめらかでうつくしい羽毛が、鳥の翼とおなじように並べられ、真鍮や青銅、白銀などの土台にとめられているのです。土台には二本のベルトがついています。ものによりますが、これをしっかり身体にくくりつけると、鳥のように空を舞うことができるのです。どういうふうにとべるのかは、後ほどお話します。
アテナとヘパイスは、それらの横を通りすぎていきました。羽の列と廊下はどこまでも続いているようでした。
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